ヒト胎児由来細胞にガンマー線を連続照射し、がん化形質の発現動態を追跡した。週7.5cGyの照射を細胞の生涯を通じて行うと、細胞の試験管内寿命(最大細胞集団分裂数)は、40-60%増加したが、いずれの細胞も無限増殖能を獲得するには至らなかった。同様の現象は、1日・8時間あたり1cGyの極低線量率の連続照射によっても起こることがわかった。こうした細胞で染色体の構造異常が有意に増加することはなかったが、染色体の数に異常が起こり、高頻度に異数性(aneuploid)細胞が出現する。通常、ヒト細胞における染色体数は、極めて厳密に維持され、構造異常を高頻度に生ずる線量の放射線照射によって異数性が誘導されるとする報告は殆どないという事実を考慮すると、本研究で観察された現象は、低線量放射線照射に特異的な現象であり、低線量放射線に対する応答現象として遺伝的不安定性が誘導される可能性を示唆している。
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