αβγ、3種類のサブユニットより成る3量体GTP結合タンパク質(Gタンパク質)は、細胞膜を7回貫通する構造をもつ受容体と共役して、外界からの無数のシグナルを細胞内のシグナルに変換する多機能タンパク質である。Gタンパク質共役受容体を介して細胞の増殖が調節されることが知られているが、その細胞内情報伝達の分子機構に関しては不明の点が多い。本研究では、Gタンパク質を介するシグナル伝達経路とチロシンキナーゼ-Ras-MAPキナーゼカスケードがどのような関係にあるかを明らかにすることを目的とした。種々の受容体、Gタンパク質の各サブユニットのcDNAをヒト胎児腎由来293細胞に導入し、一過性に発現させMAPキナーゼカスケードの各コンポーネントの活性化を検討したところ、Gタンパク質のβγサブユニット複合体がGタンパク質共役受容体からのシグナルのトランスデューサーとして機能し、Rasを介してMAPキナーゼの活性化を引き起こす事が明らかとなった。さらにβγサブユニットからRasに至る経路にチロシンキナーゼ、PI3キナーゼが関与することがそれぞれの阻害剤を用いた実験から示唆されたが、βγサブユニットの直接のターゲットの同定にはいたっていない。また、βおよびγサブユニットの変異体を作成し、種々のシグナル伝達における作用を調べたところ、脂質修飾を受けずにβサブユニットと複合体を形成し細胞質に蓄積するγサブユニットの変異体が、EGF受容体などのチロシンキナーゼによるc-Fosプロモーターの活性化を阻害することを見いだした。また、βサブユニットのC末端の数アミノ酸がγサブユニットとの複合体形成に必要であるのみならず、MAPキナーゼ、JNKの活性化等にも重要であることが明かとなった。
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