研究概要 |
大腸菌アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AspAT)や芳香族アミノ酸アミノ基転移酵素(AroAT)は,2つの基質間のアミノ基転移反応を触媒する。酸性基質に対する反応性は両酵素とも似かよっているが,疎水性基質に対する反応性はAroATが高い。蛋白質工学的解析より,両酵素は酸性基質用と疎水性基質用の2つの基質結合ポケットを持ち,基質によって2つのポケットを使い分けていることが明らかになった。2つの性質の異なる基質結合ポケットを使い分けるのは,アミノ基転移酵素のみならず,転移酵素で一般に広く使われている酵素設計原理なのかも知れない。 酸性基質結合ポケットについては,X線結晶解析から,基質のCOO^-と酵素のArg292との間の静電的相互作用が重要であることが明らかになった。 疎水性基質結合ポケットについては,X線結晶解析がまだ成されていないが,AspATとAroATのキメラ酵素では,酸性基質に対する反応性が親酵素とあまり変わらず,疎水性基質に対する基質特異性が大きく変化した。これらの結果から,疎水性ポケットが酸性ポケットと異なることが示唆された。さらに,一連のキメラ酵素の基質特異性とX線結晶解析の結果より,活性部位から離れたアミノ酸残基が“分子全体のゆらぎ"を介して,疎水性基質の特異性に関与していることが示唆された。 一連の直鎖および分岐鎖基質を合成し,2つの親酵素およびキメラ酵素との反応効率を測定した。その結果,酵素の疎水性アミノ酸基質認識部位は,比較的均一な疎水的環境になっており,AroATの方がAspATよりも疎水的であることがわかった。また,基質の炭素数が大きければ,基質の炭素鎖が直鎖か分岐しているかにかかわらず,反応効率は似かよっていることも明らかになった。このような疎水性基質に対する広い特異性は,高い特異性を示すtRNA合成酵素などとは全く異なる。このようなアミノ基転移酵素の特異性の低い疎水性基質認識機構は,蛋白質の分子設計原理の一つとして,将来広い応用できると考えられる。
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