研究概要 |
ヒト白血球およびラット肝臓由来のマクロファージ遊走阻止因子の大量発現系を確立し、大量精製を行った。また、大腸菌メチオニン要求株を使って、同じ蛋白質をSe-Metの存在下に発現させ精製を行った。これら4種の蛋白質のすべてについてX線構造解析可能な結晶を成長させることに成功した。これらの結晶学的データは次の通りである。ヒト白血球由来のもの(ネイティブおよびSe-Met誘導体結晶)空間群P3_121(P3_221)a=b=96.4A,c=105.5A、ラット肝臓由来のもの(ネイティブおよびSe-Met誘導体結晶)空間群P6_3,a=b=95.7A,c=87.9A。また高エネルギー物理学研究所の放射光実験施設において回折データ収集実験を行った。これにより、これら全ての結晶がX線損傷の少ない良好な結晶であることが判明した。非対称単位の大きさ、結晶の外形を考慮してラット肝臓由来六方晶型の結晶を多波長異常分散法実験に用いた。データ収集に先立ち、結晶からの蛍光X線を測定し、吸収端付近のデータ収集波長を決定した。最終的に0.900、0.973、0.981、1.100Aの4波長それぞれにおいてデータ収集を行った。データ収集は、結晶のc軸を測定装置の回転軸に合わせ、1枚のイメージにバイフット対が同時に記録される条件で、巨大ワイセンベルグカメラとイメージングプレートを使用して行った。これらのデータを用いて計算した差パタ-ソンマップ(各種Seデータとネイティブデータの差)とバイフット差パタ-ソンマップ(Se、0.973A)は共通のピークを持っていた。これらより、セレン原子の位置を4個決定することができた。予想されるセレン原子は12個であり、残りのセレン原子位置は決定できなかった。セレン原子の異常分散効果による強度変化は小さく、これを正確に見積もることが非常に重要である。この結晶は、非対称単位に12個のセレン原子を含んでおり、これが差パタ-ソンの解釈を困難にしているとも考えられるので、現在、蛋白工学的にMet残基を減らすことを検討している。また、ヒト白血球由来のものを使った同型置換法も並行して進めている。
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