神経回路網は優れて多様な情報処理機能を発揮する。一般に神経回路網は同じ回路網を使って異なる情報処理が可能であると考えられており、それを神経回路網の多形性と呼ぶ。神経回路の多形性は記憶の分散表現にも欠かせない性質であり、多形回路の生じる機構を明らかにすることは脳の機能を明らかにする上で極めて重要である。平成6年度はモノアミンが膜の性質を変化させるとして、運動を支配する神経節の多形回路の自己組織を研究した。神経細胞を記述する非線形振動子は我々のオリジナルな振動子であるKTS振動子を用いた。神経伝達物質であるモノアミン類による膜の電気的性質の変化を振動子のばね特性および平衡電位を変化させると仮定すると、実験結果を良く説明する。この研究は各種のモノアミンが複雑に入り混じっていても、それらの影響を統一的に接続することが出来る。平成7年度は、下等動物の神経節により匂い情報処理を行う神経回路網を単離培養し、感覚情報処理系の神経回路網での多形性生成の研究を行った。神経節を組織学的に調べ、この神経回路網のモノアミンがネートワーク全体に非特異的に広く投射していることを確認した。さらにネットワークにおける情報処理に深く関わると思われるLFPを測定し、モノアミンがLFPの振動特性を大きく変えることを見いだした。これは知覚系神経回路網の多機能性という意味で非常に重要と思われる。また、モノアミンは細胞内カルシウムを介してその効果を発現することから、モデル化によりネットワークにおける細胞内カルシウムの調節機構を理論的に検証した。回路網全体でのカルシウムパターンが自在にコントロールしうることが明らかとなった。これは神経回路網での多形性をどのようにコントロールするかの指針となる。また、カルシウムはシナプス可塑性とも深く関わることから、神経回路網における記憶の表現においても重要な知見と思われる。
|