研究概要 |
本研究の目的は、1個の単頭のキネシンによる微小管の運動を、再構成系を用いて解析し、力発生の分子的実態を明らかにすることである。そのために本研究では、遺伝子組み換え技術によりキネシン単頭の末端を修飾しこの部位で基板に固定した。そして、1個の部キネシンと微小管との運動を観察し、双頭のキネシンの場合と同じように連続的な運動が生じるかどうかを調べた。 キネシンの単頭分子を得るために、キネシンのN末端からアミノ酸数が340から410までの間の5種の異なる長さの蛋白質をコードする遺伝子を大腸菌で発現させた。精製した蛋白質が単頭であるか双頭であるかを区別するために、ゲルろ過法、沈降平衡法、ショ糖密度勾配遠心法、電子顕微鏡観察などを行った。その結果、アミノ酸数340、351、368の3種は単頭であり、386、410り2種は双頭であることがわかった。これら5種とも、C端末にシスタインを導入して、マレイミドビオチンでラベルし、BSAビオチン、アビジン上に固定させると、微小管を動かすことができた。微小管の運動のスピードは双頭のキネシンでは0.7um/secほどでintactな分子とあまり変わらないが、単頭のキネシンではそれより1桁以上遅くなることがわかった。単頭キネシンの基板上の密度を減らしていくと、1um^2あたり2000分子以下になると、微小管の連続的な運動は見られなくなった。しかしこの値は、アビジン・ビオチン系を介するものだけではなく,非特異的吸着により運動に寄与しないキネシン頭部も含むものであった。 以上のように、単頭キネシン分子を作製し、微小管の運動活性を得ることができた。複数分子とはいえ、単頭分子で運動活性を明らかに示したのは初めてであり、意義が大きい。
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