前年度までに、単頭キネシン分子を作製することができ、アビジン・ビオチン系によりガラスに固定することで微小管の運動活性を得ることができたので、今年度は運動の定量的な測定及び1分子モーターでの運動活性の測定に重点を置いた。 スライドガラスにアビジンを吸着させ、この上にビオチン化したキネシンの単頭及び双頭のフラグメントを載せて固定し、この上をATP存在下で微小管が滑り運動するのを観察する方法では、双頭の場合(キネシンのN末端からアミノ酸数386と410)には運動速度が約0.5μm/secでnativeの双頭分子と同程度であった。単頭分子のアミノ酸数340、351、368の場合は、それぞれ0.036、0.046、0.055μm/secであり、アミノ酸数が長いほど速くなる傾向があったが、双頭分子に比べると約十分の一程度になっていた。 一方、アビジンをコートしたビーズにビオチン化したキネシンフラグメントを結合させ、スライドガラス上に固定した微小管上に光ピンセットを用いて接触させ、相互作用によるビーズの変位を測定する方法によると、双頭分子も単頭分子も同様な挙動を示した。即ち、微小管と相互作用を始めると急速に力を発生してから等尺状態に近づいていき、6〜7pNに達した。また、力発生の初期における最大速度は0.6μm/secであり、これらの値は、nativeの双頭分子と同程度であった。また、ビーズに結合させるキネシンフラグメントの量を減らしていっても運動がみられる限りこれらの値は変わらなかったので、1分子に近い状態の運動を観測していると考えられる。 前述のガラス表面にキネシンフラグメントを固定する系では、1本の微小管に複数のキネシンモーターが相互作用しており、その向きもまちまちであるのに対し、後述のビーズのキネシンを固定する系では、1分子のモーターが最も運動に適した向きで相互作用することが可能である。従って、単頭1分子のキネシンでも、双頭の場合と同程度の最大速度と最大力を出すことができることが明らかになった。
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