血管の最内側を覆う内皮細胞は紡錘形をしており、その長軸を血管走行方向に向けて敷石状に規則的に配列している。この形と配列は血流による細胞の剥離を防ぐ点で合理的である。しかしシャーレ中に培養した内皮細胞はこのような特徴的形態を示さない。では一体この形と配列はどのようにして決められるのだろうか?血圧の周期的変動に由来する血管周方向(配列軸に垂直な方向)の周期的伸展刺激が重要な要因であることが分かっている。本研究計画の最終目標は、機械刺激による内皮細胞の形づくりの分子機構を解明することである。具体的には、その分子カスケードに関する我々の仮説(伸張刺激-機械受容チャネルの活性化-Ca動員-Fアクチンと接着分子の再編成-形の変化)を検証してすることを目的とした。 初年度(平成6年度)、は主として前半のステップを解析し、形態応答には、(1)機械受容チャネルの活性化による細胞内Ca動員が必須であることが明らかになった。平成7年度はCa動員の下流に位置する細胞骨格(ストレスファイバー)の反応と形態応答の連関を解析した。その結果、(2)形態反応に並行してストレスファイバーは《 Fアクチンの脱重合→ 垂直方向への重合→ 伸長と束化 》という3段階の過程をとることが分かった。形態応答は最後のステップで生じるが、細胞内Ca動員は特にこのステップに必須であることが分かった。(3)最後のステップが進行するには、Fアクチンの起点である接着斑の移動が必要であるが、実際に、接着斑蛋白質のCa依存性チロシン燐酸化が生じており、これを阻害すると、骨格系の応答も形態応答も阻害されることが明らかとなった。以上のように内皮細胞の形態形成における主要な分子カスケードが明らかとなったが、今後はさらにキナーゼやGTP結合蛋白質の関わりを解析するとともに、最終的には空間的に極性のある化学反応の調節機構を明らかにしていきたい。
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