繊維状ファージのコートタンパク質に異種タンパク質を融合し機能を保持したまま提示するシステムを利用すれば無作為な変異導入により創製されるタンパク質の構造・機能を迅速に選択できる。本研究ではリゾチームとそのモノクローナル抗体、HyHEL10に着目し、HyHEL10の可変領域(Fv断片)を繊維状ファージ上に提示するための実験系を確立し、相補性決定領域(CDR)を改変することにより抗原性の異なる相同タンパク質を認識しうる抗体の人工的作製を目指している。既にT7-プロモーターとpe1B-シグナルペプチドを利用し一本鎖Fv断片の大腸菌の分泌発現系を改良して作製した。汎用のリンカーを用いて一本鎖Fv断片の調製を試みたが、アミノ末端からVH-(GGGS)3-VLと並べると大腸菌で殆ど発現しないのに対して、VL-(GGGS)3-VHと並べると充分な分泌発現が見られた。精製した一本鎖Fv断片は抗原リゾチームと充分な結合活性を示したが、結合定数を酵素活性の阻害、滴定型熱量測定計を用いて測定すると、元のFv断片より半分程度に低下していることを見いだした。そして、この結合定数の低下は結合反応におけるエントロピーの損失によっていることを明らかにしている。今年度は、HyHEL10のVL-(GGGS)3-VHの組合せの一本鎖FvをM13ファージコートタンパク質3上に提示しファージ抗体を作製し、このファージ抗体は抗原リゾチームと充分な結合活性を示すことを見いだした。このファージ提示の際、申請者等が最近確立したファージミッドを利用した新しい提示系でのみ安定で確実な提示が可能であった。VHのCDR3に無作為な変異導入し、相同蛋白質であるヒトリゾチームを抗原として選択することにより、ニワトリリゾチームよりヒトリゾチームに高い親和性を有するFv分子種を選択することができた。
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