研究概要 |
繊維状ファージのコートタンパク質に異種タンパク質を融合し機能を保持したまま提示するシステムを利用すれば無作為な変異導入により創製されるタンパク質の構造・機能を迅速に選択できる。本研究ではニワトリリゾチームとそのモノクローナル抗体、HyHEL10に着目し、HyHEL10の可変領域(Fv断片)を繊維状ファージ上に提示するための実験系を確立し、相補性決定領域(CDR)を改変することにより抗原性のことなる相同タンパク質を認識しうる抗体の人工的作製を目指している。既に前年度までに、HyHEL10のVL-(GGGGS)3-VHの組合わせの一本鎖FvをM13ファージコートタンパク質(遺伝子III産物)上に提示したファージ抗体は抗原ニワトリリゾチームと充分な結合活性を示すことを見いだしている。今年度はこのファージ抗体の相補性決定領域(CDR)に無作為な変異を導入し、元々認識能のないヒトリゾチームに対する認識能を有する変異抗体分子種をELISAを用いて選別した。特に、重鎖CDR2のTyr53,Ser56,Ser56,Tyr58に無作為な変異を導入し、元々の抗原であるニワトリリゾチームよりヒトリゾチームに有意に結合能を示す変異抗体分子を数個選択する事に成功した。これらの内3種類を初年度に確立した効率的発現系を利用し大量調製し、表面プラズモン共鳴法および滴定型熱量測定により抗原との相互作用を定量的に解析した。その結果、これらの変異抗体分子種はヒトリゾチームに対して、野生型抗体の十倍以上の結合能を有することが明らかになり、新しい分子認識能の創成が実現したことになる。更に、コンピューターグラフィックスによる予備的な解析により、これらの変異抗体の重鎖CDR2の構造とヒトリゾチームのPro103(ニワトリリゾチームではGly)周辺の硬い構造との相補性が新たな抗原認識能実現につながったことが示唆された。
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