繊維状ファージのコートタンパク質に異種タンパク質を融合し機能を保持したまま提示するシステムを利用すれば無作為な変異導入により創製されるタンパク質の構造・機能を迅速に選択できる。本研究ではニワトリリゾチームとそのモノクローナル抗体、HyHEL10に着目し、HyHEL10の可変領域(Fv断片)を繊維状ファージ上に提示するための実験系を確立し、相補性決定領域(CDR)を改変することにより抗原性の異なる相同タンパク質を認識しうる抗体の人工的作製を目指した。本研究をまとめると(1)HyHEL10の抗原認識に関与するFv断片を微生物の効率的発現系により作製し、部位特異的アミノ酸置換法並びに熱量測定により抗原抗体反応の詳細な解析を行い、抗原抗体反応のいくつかの基礎的な特徴を明らかにしてきた。(2)HyHEL10の一本鎖Fv断片を汎用のリンカー(GGGGS)_3を用いて調製を試みたが、アミノ末端からVHーリンカー-VLと並べると大腸菌で殆ど発現しないのに対して、VLーリンカー-VHと並べる充分な分泌発現が見られた。精製した一本鎖Fv断片は抗原リゾチームと充分な結合活性を示したが、元のFv断片より半分程度に低下していることを見いだした。そして、この結合定数の低下は結合反応におけるエントロピーの損失によっていることを明らかにした。(3)ファージ由来のプロモーターを利用し、新規なファージ提示系を開発した。この系を利用してHyHEL10一本鎖Fv断片及び重鎖可変領域をファージ表面に安定に提示することができた。(4)新規なファージ提示系を用いて、HyHEL10の重鎖CDR2に無作為な変異を導入したライブラリーを作製し、野生型HyHEL10が結合能を持たないヒトリゾチームに対する特異性を有する新規抗体の創成に成功した。
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