本研究において我々は、バクテリアにおける高次な情報伝達機構を考える上で重要と思われる新しい事実を明らかにした。大腸菌の代表的な環境センサーであるArcBやBarAが、既に知られている情報伝達領域に加えて、今まで全く知られていなかった第二の情報伝達(トランスミッター)領域をC末端側にもってることを発見した。この新規な情報伝達領域には、自己リン酸化部位として働くヒスチジン残基が存在しており、レシーバー領域にリン酸基を転移する能力も有していた。さらに重要なことは、二つのトランスミッター領域に挟まれたレシーバー領域の役割でり、トランスミッター機能を協調的に自己制御するスイッチと考えている。このようなArcBの構造的特徴が明らかになり、ArcBが多機能センサーとして働く可能性が示唆された。すなわち、ArcBの二つのトランスミッターと一つのレシーバーに加え、ArcBと協調して働くレギュレター及びセンサー間での複雑なリン酸転移反応の存在が浮かび上がってきた。我々は、ArcBが二つの環境シグナルを同時に処理できる多機能センサー(dual input-output sensor)と考えている。
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