遺伝子の転写制御の基本機構は、転写酵素RNAポリメラーゼが、さまざまの転写因子と相互作用した結果、転写をする対象遺伝子の選択を変換することによっていることが、明かになり初めている。転写因子とRNAポリメラーゼの分子間コミュニケーションの実体を解明する目的で、本研究では、RNAポリメラーゼ上の転写因子接点の同定を目指した。 RNAポリメラーゼ各サブユニットに変異を導入することで、転写因子との接触不能となり、遺伝子制御が出来なくなることを指標にしたスクリーニングを行った。その結果、アルファサブユニットのC端領域に一群の転写因子(クラス1転写因子と命名)との接点を同定し、その領域各アミノ酸の役割を決定した。また、この領域を含む蛋白ドメインの三次元構造を決定し、転写因子と接触するアミノ酸の配置を決めた。その上に、この領域が、DNAのエンハンサーをも認識するサイトであることを実証した。これは、蛋白因子とDNA制御シグナルのいずれをも認識する、新しい蛋白機能域の発見となった。一方、RNAポリメラーゼの他のサブユニット、シグマ、ベタ-およびベタ-プライム上にも、他の転写因子との接点のクラスターが存在する予備的結果を得た。 本研究期間中の一連の研究に拠って、大腸菌の約100種類の転写因子全ての接点を、RNAポリメラーゼ上に同定する方向の研究の基礎を導き、軌道に乗せることが出来た。
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