転写制御因子FTZ-F1によるftz遺伝子の転写活性化に必要なメディエーターMBF1とMBF2をカイコ絹糸腺抽出液から精製し、それらのcDNAをクローニングした。MBF1は146アミノ酸から成る塩基性タンパク質で、そのアミノ酸配列は酵母からヒトまで広く真核生物に保存されている。MBF1はFTZ-F1と相互作用し、その特異的塩基配列への結合を促進する。MBF1とFTZ-F1の相互作用には、FTZ-F1のDNA結合ドメイン内にあるFTZ-F1 boxのC末端側の配列が必要である。MBF1はTATAエレメント結合タンパク質(TBP)とも直接結合する。MBF2は92アミノ酸から成る塩基性タンパク質で、native MBF2ではN-グリコシド結合を介して糖がついている。MBF2は、MBF1とヘテロダイマーを形成し、TFIIAのβサブユニットとも直接結合する。MBF2は単独では種々のプロモーターからの転写を非特異的に促進するが、MBF1とFTZ-F1存在下には、ftzプロモーターからの転写を選択的に活性化する。MBF2単独による非特異的転写促進も、MBF1とFTZ-F1存在下に見られるMBF2によるftzプロモーターからの選択的転写活性化も共にTFIIAを必要とする。以上の結果からFTZ-F1による転写活性化の機構に関して次のモデルを提唱した。MBF1はFTZ-F1とTBPの間をつなぐbridging factorであり、FTZ-F1とMBF1がFTZ-F1結合配列をもつプロモーターにMBF2をリクルートする。MBF2はpositive cofactorで、TFIIAのβサブユニットと結合することにより、FTZ-F1結合サイトに依存して転写活性化する。
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