生理活性物質や化学物質により誘導される細胞増殖停止には、特定の細胞周期に限って観察されることがある。これらの特異的な細胞周期停止に、サイクリン依存性蛋白リン酸化酵素(cdk)に結合し、その酵素活性を阻害する蛋白質が関与する場合があると考えられている。一方組織培養系において、細胞密度が上昇することにより、細胞増殖を誘導できるほどの濃度の増殖因子が存在しているのにもかかわらず、細胞がGO期に停止してしまう現象が知られている(接触阻止)。接触阻止の消失は細胞癌化の示標であり、接触阻止の分子レベルでの理解は、細胞癌化機構の理解を助ける。また、個体レベルでの細胞増殖を考えると、肝切除後肝再生には、肝細胞の同調的な細胞周期進行とそれに続くGO期での停止が観察される。接触阻止について、cdk活性とそれらの阻害性蛋白質群との関り合いを明確にし、それらの知見をもとに、再生肝におけるそれぞれの役割を観察した。 接触阻止にcdk4は、サイクリンD1あるいはD3とラット線維芽細胞株3Y1内で複合体を形成しているが、不活性である。一方、これらの不活性な複合体を試験管内でcdk活性化酵素し蛋白リン酸化酵素)と反応させると、cdk4活性が測定できた。このことから、cdk4はcdk活性化酵素によりリン酸化を受けるが、接触阻止時には、cdk4のリン酸化が阻害されていることが示唆された。このcdk4活性化の阻害に、cdk阻害性蛋白質群のひとつであるp27^<kip1>が関与していることを明らかにした。一方、再生肝においては、p27^<kip1>ではなくて、p21^<cp1>の関与を示唆する観察結果を得た。
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