平成8年度では、ブタ卵巣の卵胞液から単離されたセリンプロテアーゼ(フォリプシン)の活性化機構を解明することを試みた。本酵素の精製過程で得られるクロマトグラフィーの各ステップでトリプシン消化の効果を検討したところ、顕著にフォリプシン様活性の増大する分画があることが判明した。詳しい生化学的解析により、トリプシンで活性化を受ける酵素がフォリプシンそのものであることを証明した。さらにブタ卵胞液から一本鎖型の不活性前駆体フォリプシンの単離にも成功した。また同じ卵胞液には、不活性フォリプシン前駆体を二本鎖の活性型フォリプシンへと変換できる酵素(フォリプシン活性化酵素)が含まれていることを明らかにした。 一方、ヒト卵巣由来の卵胞液を用いた研究にも着手し、ブタフォリプシンと機能的に相同な分子の探索を行った。その結果、プラズマカリクレインが単離されてきた。しかしプラズマカリクレインの殆どが、卵胞液のタンパク質分解酵素阻害タンパク質α2-マクログロブリンと複合体を形成して不活性化状態となっていることが判明した。従ってヒト卵胞のプラズマカリクレイン活性は、上記の阻害タンパク質により調節されていることが示された。 ヒト卵胞液からプラズマカリクレインが単離されたことにより、ブタフォリプシンがプラズマカリクレインである可能性が示唆された。現在、フォリプシンとカリクレインの異同について再検討をおこなっている。
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