本研究の目的は、ニワトリ消化管をモデルに、器官形成における上皮の遺伝子発現を制御する間充織因子の探索とその生物学的性質を解析することである。本研究ではまず、消化管の分化が間充織の器官特異的誘導作用と、上皮の領域特異的反応性によってもたらされることを明瞭に示した。次いで、上皮の領域特異性が、転写因子や形態形成物質の遺伝子の発現によってもたらされることを、種々の遺伝子発現を詳細に解析することによって明らかにした。さらに、これらの遺伝子の発現が、間充織の作用によって規定されることを、実験発生学的に示した。とくに、本研究で注目したニワトリ胚期ペプシノゲンの遺伝子発現については詳細な解析がなされ、その発現に関与する間充織からの作用が現れるのに必要なプロモーター領域も決定された。間充織の作用の分子的実体については、様々な成長因子が関与していることが示唆され、とりわけ、骨形成タンパク質の関与が重要であるとの結果が得られた。このほかこの研究期間内に、この研究でも利用し、また今後の研究に極めて有用ないくつかの遺伝子をクローニングすることができた。このように本研究は、上皮の遺伝子発現と間充織の作用を解析したものであるが、さらに、間充織における層状構造の形成が上皮によって制御されていることも明らかになり、消化器官という複雑な構造が分化することのほぼ全段階に関して、従来とは全く異なるモデルを提唱することができた。
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