研究概要 |
本研究の目的は、ラット脳の発生過程で胎生期特異的に発現する遺伝子群を単離し、それらのmRNA発現パターンを詳細に解析することにより、脳神経系の発生・分化過程の解析に有用な新しい分子マーカーを同定することである。我々は、胎生16日のラット脳からpoly(A)RNAを抽出してcDNA libraryを作製し、この中から、胎生16日の脳に比べて生後30日のラット脳で発現が著しく減少するmRNAに対するcDNAクローンを、differential screening法及びその改良法(cDNA library DNA-Southem blot法)を用いて選択した。そして、得られた候補クローンのmRNA発現パターンをNorthem blot法とin situ hybridization法で解析した。その結果、胎生16日脳のcDNA約450クローンの中から、胎生期の脳に選択的に発現するmRNAのcDNAクローンをこれまでに5種類単離することができた。それらのクローンの部分塩基配列を解析したところ、このうち3種はデータベース中の既知の配列(βtubulin Mβ5,thymosin β10,S24類似のribosomal protein)と一致したが、2種については報告されていない新しい遺伝子であることが判明した。in situ hybridization法での解析結果では、これらのmRNAは、各遺伝子ごとに様々な発現パターンを示しながら脳発達に伴って減少しており、生後30日脳での発現は非常に弱いものの、一部の細胞群には尚有意の発現が認められた。また興味深いことに、これらの中のいくつかの遺伝子では、発達過程の小脳外顆粒層やsubventricular zoneに選択性の強い発現が認められた。 今回の研究により、ラット脳の発達過程において、胎生期に選択的に発現している遺伝子群はかなり数多く存在することが明らかになり、遺伝子工学的な手法の有用性が示された。このような胎生期選択的な遺伝子群の系統的随所はこれまでほとんど行われておらず、今後、遺伝子発現パターンをさらに詳細に解析すると共にコードする蛋白の構造解析等を行なうことにより、神経系発生過程の各種の前駆細胞を識別する新しい分子マーカーが同定できると考えられる。
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