一酸化窒素(NO)は、大気の汚染物質である一種の有毒ガスであるが、驚くべきことに脊椎動物のある種の細胞がNOを産生することが発見され、しかも生体において内因性のNOが種々の生理活性をもつことが最近になって次々と明らかになってきた。多機能性NOの神経系における作用を要約すると、(1)神経伝達(2)シナプス可塑性(3)神経細胞毒(4)神経老化などへの関与である。NO作用の多様性は動的にNO合成酵素の面からもとらえられる。すなわち、正常なNO産生細胞がもつ構成型NO合成酵素(cNOS)のほかに、炎症や神経変性などの病的環境に応答して誘導型NO合成酵素(iNOS)の遺伝子発現が惹起され、両者によってNOの産生と放出が複雑に調節をうけている。 本研究は、その研究の流れを視野におさめつつ、NO作用の主要舞台である脳に焦点を当て、分子のレベルから個体までの諸段階において、具体的かつ詳細にNOの生理的役割を明らかにし、その機能破綻の結果出現する病態を的確に把えようとする長期計画の一つである。具体的には研究代表者の木村とVincent(カナダ)が1983年に開発したNADPHジアホラーゼの酵素組織化学法および最近のNO合成酵素に対する免疫組織化学をNO含有神経の可視化マーカーとして用た。その結果、脳外にある翼口蓋神経節のNO神経が脳血管を支配する詳細を明らかにし、さらには脳虚血やカイニン酸投与など動物モデル脳における早期発現遺伝子(c-fos)の出現時期との関連性を併せて追及した。本研究の当初の目標であった発育過程におけるNO含有神経の分布図を作ることが出来、1995年7月本研究者らが主催した国際シンポジウムで発表し、国際誌の特別号を本年公刊の予定である。
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