研究概要 |
アルツハイマー病の病変部に蓄積されるβA/4蛋白質は膜結合型レセプター様の前駆体蛋白質(βAPP)として合成された後、蛋白分解酵素により異常なプロセスを受けて生成される。宮崎香博士らは生化学的研究からGelatinase AがβAPPの強い分泌酵素活性を持つ可能性を示唆し、アルツハイマー病の発症機構に関与しうるとする重要な仮説を提唱している(Nature 362,839-841,1993)。この研究では、GelatinaseA遺伝子欠損変異マウスを作成し、この仮説を直接的に検証することを目的としている。GelatinaseAのゲノミックDNAをマウス129系統から単離し、これを元にターゲッテイングベクターを構築し、相同性組換えによってGelatinaseA遺伝子座に欠損変異を導入したマウス胚性幹細胞を得た。このクローンをマウス初期胚に注入して得られた生殖系列キメラ個体を得て、変異体マウスの子孫を得た。変異遺伝子ホモ接合体は正常に発育し、器官形成も正常であった。このことは、これまでGelatinaseAが器官形成時の細胞再配列に必須だろうとの仮説を否定すると同時に、この個体を用いたAPPの代謝についての解析を可能とした。この解析では、マウスAPPに対する有効な抗体が少ないなど、幾多の困難に遭遇したが、現在最終段階に達している。確認実験の結果を待って早急に公表する予定でいる。また、GelatinaseAは癌細胞の転移に関与する可能性が指摘されており、この点に関しての解析を計画している。
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