研究概要 |
アルツハイマー病の病変部に蓄積されるβA/4蛋白質は膜結合型レセプター様の前駆体蛋白質(βAPP)として合成された後、蛋白分解酵素により異常なプロセスを受けて生成される。横浜市立大学木原生物学研究所の宮崎香博士らは生化学的研究からGelatinase AがβAPPの強い分泌酵素活性を持つ可能性を示唆し、アルツハイマー病の発症機構に関与しうるとする重要な仮説を提唱している(Nature 362,839‐841,1993)。Gelatinase AはβA/4蛋白質の内部に存在するアミノ酸配列を認識してβAPP切断・分泌するため、分泌されたβAPPはβA/4蛋白質生成の基質でなくなる。この点に関しては複数の研究グループにより、培養細胞を用いた生化学的手法で検討されてきたが相反する見解が示されている。この研究では、この仮説を直接的に検証することを第一義の目的として、Gelatinase A遺伝子欠損変異マウスを作製し、in vivoおよびin vitroにおけるβAPPの生合成を解析した。また、GelatinaseAは個体発生の過程で細胞の移動および組織構築、あるいは癌の増殖および転移にも関与すると考えられている。これらについても検討した。このマウスの脳組織および培養胎児線維芽細胞を用いたβAPP蛋白質の代謝過程の解析結果は、Gelatinase AがβAPPの主たる分泌酵素ではないことを明かとした。変異マウスは組織学的異常は示さないものの、野性型マウスに比して有為に体重増加が遅く、Gelatinase A発生上の役割を示唆している。また、腫瘍細胞の移植実験で腫瘍細胞の増殖は変異マウスで有為に遅いことが示された。これらの結果はGelatinase Aが細胞の増殖制御に関与することを示唆している。結果は、複数の論文として投稿中もしくは投稿準備中である。
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