研究概要 |
刺激により早期に発現するimmediate early genes(IEGs)は核内で転写調節因子として働く蛋白を産生して、時間経過の長い細胞機能の調節に関与している。これらのIEGsは神経系の可塑性や再生などに重要な役割を果たしていると考えられるが、その発現調節機構や刺激の種類に対する反応の特異性については、未だ不明な点が多い。本年は刺激の種類や細胞の種類によりこれらのIEGsの発現がどのように異なるか、また共通して認められる特徴は何かということについて検討を加えた。昨年度、反復拘束ストレスにより視床下部部室傍核におけるc-fos mRNAの発現は抑制されるが、NGFI-A mRNAの発現は抑制されないことを報告したが、今年度は通常の飼育時、大脳皮質視覚野においてNGFI-A mRNAは発現するが、c-fos mRNAの発現は抑制されており、暗所飼育を数日間行うと視覚刺激に対するc-fos mRNAの反応性は回復することを明らかにした。このことから、NGFI-Aは刺激による神経興奮により発現するが、c-fosは刺激の変化に対応して発現するのではないかという可能性が考えられる。一方、神経系以外の細胞においても刺激によるIEGs発現が観察された。例えば、拘束ストレスにより、心臓の冠状動脈や心筋細胞の一部、胃粘膜などにc-fos,C-JUN,NGFI-Aが一過性に発現し、拘束ストレスを反復するとこれらのIEGs発現は全て抑制された。また、角膜損傷後の角膜上皮においても、c-fos,fosB,c-jun,junB mRNAの一過性の増加が認められた。このように、刺激の種類・細胞の種類の違いにより、IEGs発現の調節機構が異なることが明らかになってきた。これらのIEGs発現が細胞の機能にどのような影響を及ぼすかということについては、遺伝子操作動物を作成し、検討を進めている。例えば、c-fos発現を完全に抑制した場合(c-fos knock-out mouse)、あるいはtransgenic mouseにおいて過剰に発現させた場合に、動物の疼痛行動やストレス応答がどのように変化するかということ、脳の初代培養細胞の機能や生存に与える影響などについて検討中である。
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