研究概要 |
老化した神経系では、神経突起を支える細胞骨格の機能的、構造的破綻を示唆する所見が多数みうけられる。また、アルツハイマー型老年痴呆脳に蓄積する神経原繊維変化が、微小管調節蛋白の一つであるタウ蛋白を主成分とすることからも、異常構造物の生成と細胞骨格蛋白の代謝異常との関連が推察される。本研究は、細胞骨格の加齢変化を明らかにするとともに、神経細胞における細胞骨格の代謝調節機構を解明することを目的としている。本年度は、個体レベルの軸策内輸送系と、培養神経細胞の系を併用して実験を行い、以下の結果を得た。 1.成熟軸索には、様々な脱重合条件でも可溶化されない『不溶性チューブリン』が多量に存在することが明らかになっているが、このような不溶性チューブリンは、培養下の後根神経節細胞においても、突起形成に伴って出現し、増量する(J. Neurochem., 64, 354-363)。ビデオ増強微分干渉顕微鏡観察により、不溶性チューブリンの実体が、細胞外液中でも数時間以上も脱重合しない安定型微小管であることがわかった(印刷中)。 2.ラット前根よりタウ蛋白を調整して検索したところ、脳微小管由来のタウにみられる多数の分子種のうち、ごく一部の高度にリン酸化されたもののみが、末梢神経軸索に存在することがわかった。更に、末梢神経軸索ではタウの60%が不溶性であった(Biochem. Biophys. Res. Comm., 210, 338-344)。 3.ラット坐骨神経運動繊維の系を用いてタウの軸索内輸送を調べたところ、不溶性タウは、不溶性チューブリンとともに最も遅い速度成分SCaで輸送され、可溶性タウは、これらより速い成分SCbで輸送されることが明らかになった。不溶性タウと不溶性チューブリンが一体となって輸送されることから、上記1.に示した安定型微小管にタウが関与する可能性が示唆される(投稿中)。
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