本研究は、ES細胞を利用して発生初期の脳神経系に発現している未知遺伝子をジーントラップ法で直接検索、分離しその遺伝子の機能を解析することである。研究は大きく4段階に分けられる。 1.ES細胞でのスクリーニング:受精後2細胞期から発現しているEカドヘリン遺伝子のスプライシングアクセプター、IRES配列を利用したジシストロニック・ベクターを構築する事によってES細胞でのスクリーニングを効率よく行えた。脳神経系に発現する遺伝子を探索するため、ES細胞を分化させ、神経特異的蛋白に対する抗体に陽性の細胞でトラップ遺伝子が発現しているものを13系統から3系統を選択した。 2.キメラマウスの作出:13系統のES細胞を宿主マウスの胚盤胞に注入してキメラマウスを作出し、キメラの胎生14.5日胚をレポーター遺伝子であるβガラクトシダシ-ゼの活性染色をしたところ、上記3系統では神経系でトラップジーンが発現していることが確認できた。 3.マウスの樹立:3系統をC57BL/マウスと交配し、2系統(GT3-11、12)からはトラップされた遺伝子を持つマウスが生まれ、ES細胞が生殖に寄与していることが判った。 4.トラップ遺伝子の解析:アンピシリン耐性遺伝子を利用したプラスミドレスキューによって挿入された遺伝子の一部をクローニングすることに成功した。GT3-11はホモ個体が得られず胎生致死と考えられた。ジーントラップされたES細胞および胎児脳から精製したRNAを鋳型として5'RACEを行い、融合cDNAをクローニングした。部分塩基配列を決定した現時点ではGT3-11、12共未知の遺伝子がトラップされた。今後は、この新しい遺伝子の脳神経における機能を解析していく。
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