本研究計画では、NMDA型グルタミン酸受容体ε1サブユニット遺伝子欠損マウス(ε1ターゲッティングマウス)を用い、遺伝子欠損の神経機能に及ぼす影響を解析することでその分子の役割や機能のメカニズムを追求することを目的とする。NMDA型グルタミン酸受容体にはいくつかのサブユニットがあるが、このうちの一つであるε1サブユニットを欠損させたε1ターゲッティングマウスについて、海馬CA1シナプスのNMDA受容体応答および長期増強について分析を行い次の様な結果を得た。1)成体(9週令)の段階では、ε1欠損によって、海馬CA1シナプスの基本的なシナプス伝達能、およびその伝達効率は変化しなかったが、NMDA受容体応答は、野性型マウスの約半分に減少していた。このとき、長期増強は顕著に抑制され、このマウスはMorris型水迷路で検討したところ、学習能力も低下していたので、上記結果は海馬の長期増強が記憶の基礎過程であるとの考えを強く支持しているものと言える。2)次に、ε1遺伝子欠損の影響が生後発生の過程にどのように影響するかを検討した。CA1シナプスのシナプス応答におけるNMDA受容体応答の相対的割合は、野性型もε1ターゲッティングマウスもともに週令が進むにつれて減少したが、ε1ターゲッティングマウスは週令に関わらず常に野性型のほぼ半分であった。これに対し長期増強に対する影響は、週令が進むとともに重篤となり、成体では野性型マウスに比べて長期増強が半分以下に抑制された。今後は、他のシナプスにおける遺伝子欠損の影響を検討して行く計画である。
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