最近の免疫組織化学的手法を用いた解析から皮質脊髄路線維の伝達物質としてグルタミン酸が示唆されているが、直接の証明はない。また、抑制性伝達機構についても調べられていない。そこで本研究では以下を明らかにすることを目的とし実験を行った。 1、薬理学的検索が容易な脊髄スライス標本において皮質脊髄路効果を観察できるか: 皮質脊髄路が頸髄灰白質に投射する生後5-9日のラットを用いて頸髄スライス標本を作成した。脊髄内の後索を中心に微小刺激を行い、その応答を頸髄前根より記録した。ラットでは、皮質脊髄路線維は後索の最腹側部を下行するが、その部位の刺激に限局した応答が観察された。これは、一次求心性線維の上行する後索の背側部刺激による応答とは潜時と波形から明確に区別されることを明らかにし、頸髄スライス標本で皮質脊髄路効果を観察する手法を確立した。 2、グルタミン受容体は皮質脊髄路の伝達に関与しているか: グルタミン受容体のサブタイプであるNMDA受容体とnonNMDA受容体の関与についてそれぞれの拮抗薬を用いて皮質脊髄路効果の伝達様式について薬理学的に解析した。その結果、両者の受容体とも皮質脊髄路から運動ニューロンへの伝達経路に関与していること、nonNMDA受容体の関与がより大きいことが明らかになった。 3、抑制性伝達路は関与しているか: 皮質脊髄路-運動ニューロン間の伝達に抑制性効果がどの様に関与しているかを調べるために抑制性伝達物質であるグリシンの拮抗薬を潅流投与し、皮質脊髄路の刺激効果への影響を観察した。多シナプス性に誘発される応答は抑制路の遮断によって著明に増大した。これらの実験から皮質脊髄路効果の伝達路は抑制性の制御を受けていることを明らかにした。
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