育毛細胞をシナプス前細胞、小脳培養系の顆粒細胞およびプルキーニェ細胞をシナプス後細胞とする実験系で、有毛細胞の膜脱分極は顆粒細胞においてのみ電流現象を発生することができ、プルキーニェ細胞では電流を生ずることができなかった。プルキーニェ細胞には非-NMDA型のグルタミン酸受容体が発現し、顆粒細胞にはNMDA型受容体が発現している。グルタミン酸、アスパラギン酸、ホモシステイン酸の容量応答関係を顆粒細胞とプルキーニェ細胞とで詳細に検討した。有毛細胞の放出する伝達物質の濃度では、グルタミン酸はプルキーニェ細胞体上に発現した非NMDA型受容体を活性化することはできなかったが、アスパラギン酸およぴホモシステイン酸はともにプルキーニェ細胞体上に発現した非NMDA型受容体を活性化する事ができた。したがって、グルタミン酸のみが有毛細胞と顆粒細胞、プルキーニェ細胞間の伝達特性にマッチした。これはグルタミン酸が神経伝達物質である可能性がもっとも高いと考える根拠である。また、グルタミン酸の放出部位での濃度を拡散方程式から計算し1.7X10^6個のグルタミン酸分子が0.5秒間の膜脱分極の間に放出されることを推定した。これはおよそ860個のシナプス小胞が動員されることを示唆する。さらに、ヒヨコの有毛細胞には活性帯が4ないし6個ほど存在するので、一個の活性帯当たり2msec程度の時間間隔を持ってシナプス小胞は放出されるものと考えられる。
|