生まれたばかりのコザル(アガゲザル13頭とニホンザル2頭)を母親から離し、床上においたリンゴを手で取って食べる訓練(リンゴ取りテスト)、不透明な薬ビンの蓋の下にリンゴを隠し、手で蓋を開けて、下のリンゴを手で取って食べる訓練(隠しリンゴ取りテスト)をまず行って、生後何日頃にどちらの手でリンゴや蓋を取るかを調べた。生後60日では、リンゴ取りテストができるようになり、3頭が右手、7頭が左手で取り、5頭は取る手が決まらなかった。隠しリンゴ取りテストでは、生後60日では、3頭が右手で蓋とリンゴ、4頭が左手で蓋とリンゴ、取る手が決まらなかったのが8頭となった。これらのテストが大人サルと同じくらいに器用にできるようになるのは、生後4ケ月であった。2頭のコザルで、NMDAレセプターの阻害剤D-2-アミノファスファバレサン酸(D-APV)と6-シアノ-7-ニトロプリノキカイン-2、3、-デオン(CNQX)、GABA_Aレセプターの阻害剤ビククリン・メチオダイド(BMI)を、使う手と対側の運動野(脳内微小刺激で指の運動が起きる場所)やその吻側の運動前野に微量注入した(各20カ所ずつ)。 生後2〜3カ月のコザルでは、D-APVにより手の運動が下手になり、リンゴや蓋を落とすようになった。そして今まで使っていなかった手を使って、リンゴや蓋を取るようになった。この結果、1)サルの新皮質シナブス過剰形成期(生後2〜4カ月)の終わりで、リンゴや蓋を摘む運動は大人近くのレベルに達するまで学習できるという事が解った。2)D-APVはグルタミン酸によるシナブス伝達を阻害するので、運動でこの伝達が阻害され、手の運動が下手になったと考えられる。つまり、リンゴや蓋を見て、手を出してつかむ運動(視覚性到達運動)を起こすのに運動野のグルタミン酸伝達が関与していることが明確となった。CNQXは、はっきりした効果を示さなかった。BMIは、運動の開始と終わりが遅くなった。非NMDA系は、運動野では関与しておらず、GABA抑制はすでに運動コントロールに関わっていることが示された。前半のデータは、第15回国際霊長類学会で発表した。
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