研究概要 |
本年度(平成6年度)は研究実施計画に記したように、心理精神的ストレスや日常行動下で血圧変動を来したとき、自律神経系による血圧再調節を解析するための計測評価システムを開発することに主力が注がれた。そのため本年度では、(i)一心拍毎の血圧及び脈波間隔を無拘束的に求めるための携帯型連続血圧・脈波間隔計測システムの開発、(ii)自律神経系の興奮/抑制を解析する為の評価法とソフトウエアの開発、及び(iii)健常人によるシステム試用について実施した。以下、得られた成果の概要について記す。 (i)については、申請者らが考案・開発した容積補償法の原理を用いて空気圧制御系によるシステム開発が行われた。その原理は、当該部血管内容積を無負荷時のそれに一致するように外圧制御(容積補償)したとき、制御された外圧(カフ圧)が血管内圧即ち血圧と常に平衡するというものである。手指の計測ではカフ内に容積検出センサを内蔵し、電空変換器は手首ユニットに収め、また浅側頭動脈ではこれらを頭部カフ内に全て収めて、空気圧制御の応答特性(0〜20Hz)の改善を計った。また、測定手順や信号・データ処理等はCPUで自動的に実施され、一心拍毎の最高(SBP)/平均(MBP)/最低血圧(DBP)、脈波間隔(P-P)、心電図R-R間隔、及び必要に応じて呼吸数(ReP)がメモリICカードに収録(約120,000心拍分以上)されるようにした。試作開発した携帯装置本体の外寸は163X139X48mmで、測定終了後データ再生はマイコンにて処理される。 (iii)については、本研究では(a)圧受容体一心臓反射、及び(b)交感副交感神経活動機能を評価対象とした。前者は、Bertinieriら(Amer Physiol,254,1988)、及び今回追試験を行った動物実験的所見に基づき、変動する連続血圧データから引き続く3-6心拍分のSBPと、各々に対応するP-Pに正の直線相関(その勾配が圧受容体反射の感度となる)があるか否かを判定する評価法である。後者は、血圧変動を来している領域の時系列血圧データとR-Rデータを用い、最大エントロピ法MEM)によるスペクトル解析を行うことによって、低周波数帯域(LF;0.04〜0.12Hz)と高周波数帯域(HF;0.15〜0.5Hz)のスペクトルパワ積分値から神経活動を評価するものである。この様な評価法に基づき、(i)で得たデータを解析するソフトウエアを開発し、コンピュータベースの解析処理システムが構築された。 (iii)では、姿勢・体位変換や心理精神的なストレスを負荷したときのデータを本システムから求めた解析を試みたところ、起立性低血圧時の圧受容体反射による血圧再調節の機序、ストレス負荷時の圧受容体反射の抑制、LFとHFスペクトルパワから得られる諸指標と自律神経活動機能との関係など、興味ある知見も得られ、本システムの有効性が確認された。
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