ブタ大動脈平滑筋抽出液をDEAE-Toyopearl650Sカラムクロマトグラフィに供し、0.15および0.2M KCI付近で溶出する二種類のミオシン重鎖キナーゼ活性の存在を見いだした。それぞれを、myosin kinase I(MKI)、およびmyosin kinase II(MKII)と命名した。[γ-^<32>P]ATPを基質とし、130倍まで精製されたMKIで燐酸化したミオシン重鎖から、燐酸化部位(Ser*)付近の配列、Arg-Gly-Asn-Glu-Thr-Ser*-Phe-Val-Proを持つペプチドを単離した。既に報告されているミオシン重鎖のアミノ酸配列と比較すると、ペプチドC末端のProは、平滑筋ミオシン204-kDa重鎖アイソフォーム尾部先端の近くにあって、ヘリックスを崩すProの位置に相当していた。これよりC末端部分はミオシン分子の会合に寄与すると考えられているnon-helical tail pieceとなる。燐酸化部位付近のアミノ酸配列は、平滑筋の204-kDa重鎖にのみ保存され、200-kDaアイソフォームや、非筋ミオシンでは全く異なる配列になっていた。MKIにより燐酸化した大動脈ミオシンの測定から、MKIによる燐酸化は、大動脈ミオシンの溶解度を減少させることを見いだした。MKIによる燐酸化は、弛緩状態における大動脈平滑筋において、ミオシンフィラメントの安定化に寄与している可能性がある。 一方、MKIIはほぼ均一に精製され、分子量、サブユニット構成、酵素的性質、抗体との交差反応などから、カゼインキナーゼII(CKII)であることが示された。MKII/(CKII)による燐酸化部位は、non-helical tail pieceに存在し、大動脈平滑筋において内在性のCKIIが、ミオシン重鎖の燐酸化に作用していることを直接的に示す結果になった。しかし、MKII/CKIIによるミオシン重鎖燐酸化の意義は本研究においても、解明されず残された。燐酸化されるSer周辺のアミノ酸配列は非筋ミオシンにおいても保存され、MKII/CKIIによる燐酸化は平滑筋ミオシンに特異的でない可能性が高い。また、トリ砂のうミオシンでは相当するSerがGlyに置換されていることも、今後この燐酸化の意義を解明する上で考慮に値する。
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