研究課題
本年度は、昨年度における研究成果を踏まえたうえで、各研究分担者がそれぞれの分担研究領域の資料蒐集および研究調査をさらに一層深く押し進めるとともに、定期的に研究会を開催し、毎回一名の研究分担者がその時点での新しい研究成果について発表を行なった。そしてさらにこれらの研究発表の後で、一方では同一の時代・地域における専門横断的な思想上の接点の探求と同定に、また他方では同一の専門分野における時代縦断的な思想的変貌の検討に重点を置いて、かなり時間をかけてその発表の内容について全体で批判的な討議を行ない、その結果を各自の分担研究領域の研究調査の深化と発展に反映させるよう努めた。以上のような研究活動によって得られた主要な研究成果をいくつか列挙すれば、1)アウグスティヌスの思想における創造の諸相の考察を通して永遠的規範的なものと時間的事実的なものの関係についての彼の壮大なパースペクティヴについて新たな洞察が得られたこと、2)イスラムの世界では学者や時代によって全知全能の絶対的人格神と人間によって獲得可能な知識との両者への力点の置き方が異なるために、自然法則概念に多様性が見いだされること、3)17世紀から18世紀にかけてのイングランドの国教徒たちが一般に自然的世界と政治的世界とを大胆な類比をもって語っていること、換言すれば、当時における自然法則概念と自然法概念との間に強い相関関係が見られること、4)ニュートンの『プリンキピア』において提唱された運動の法則が18世紀前半のイングランドでは自然法則の典型例として定着しており、しかもそれが後にディドロ等の『エンシクロペディー』にも大きな影響を与えたこと、5)マルキ・ド・サドの作中人物はキリスト教に基づく法、道徳、自然のイメージを批判するために、絶えず「自然の法」loi de natureという言葉を持ち出すが、ここでは神の概念と自然法則の概念が既に対立概念として把握されていること、等である。
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