研究概要 |
本研究の目的である蛋白質リン酸化を介した情報ネットワーク阻害剤の分子基礎理論を確立するためには、統一的かつ総合的研究が不可欠である.正常ないし病態における細胞内情報伝達系おいて特異的プロテインキナーゼ阻害剤を用いる分子薬理学的手法をプロテインキナーゼの機能ドメインを変異させる分子生物学的手法を活用することにより蛋白質リン酸化酵素の生理的役割を検討した. 即ち1)W-77,H-87を用いて癌細胞の薬剤耐性,抗腫瘍作用機序を検討した. 2)培養心筋細胞において,カルモデュリンキナーゼが細胞内カルシウム濃度や,心拍数の調節に重要な役割を果たしていることをKN-62を用いて明らかにした. 又,個々の蛋白質リン酸化酵素の各ドメインに特異的な阻害剤を創製するために標的とする蛋白質リン酸化酵素の活性中心構造の解析を行った.カルモデュリンキナーゼの一員としてカルモデュリンキナーゼI(CaMKI)がクローニングされ全アミノ酸配列が決定されたが,PCRテクニックを用いて各種のC末端欠失変異CaMKIcDNAを作成し,CaMKIに特有な活性調節部位が存在するか検討した.これらの欠失変異CaMKIの酵素活性をカルシウム/カルモデュリン存在下、非存在化にて測定すると共に,合成したC末端ペプチドを用いて反応速度論的解析を行った.CaMKIのC末端領域のアミノ酸配列に自己活性制御領域があり,その近傍ないしはそれを重複してカルモデュリン結合部位が存在することが示唆された.また合成したC末端ペプチドにより自己活性制御領域が基質に拮抗して酵素活性を制御していることが明らかになった.更に,この結果を踏まえた上で種々の蛋白質リン酸化酵素と阻害剤との反応様式により,より詳細な分子構造機能解析の解明が可能となると考えられる.
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