研究概要 |
液体Arに重イオンが入射した場合、生成されたイオン対の殆どが直接再結合し,外から電場を加えても十分に電離信号を引き出すことは出来ない。そのため、一般的に、液体Arは重イオンに対しては検出媒体としては不適当とみなされて来た。しかし、その後、液体Arに微量のアーレンを混入すると、その光電離効果のために、放射線によって生成された電離イオン対の再結合に際し放出される真空紫外光がアーレンに吸収されて再電離し、電離信号を増加することがわかり、それによって液体Arが重イオンに対しても使用できる可能性が出てきた。その走りは、平成5年(1993)に、月出等によって製作された。微量のアーレンを混入した小型液体Ar電離箱で、彼等は、数十MeV/nのOイオン、Alイオン、Xeイオンを照射し、通過する窓の厚さによるエネルギー損失の揺らぎによりエネルギー分解能の悪いXeイオンの場合を除いて、FWHMで1%以下のエネルギー分解能を得ることが出来た。この事実に基いて、100MeV/n付近のOからCaまでのイオンに対して、1%以下のエネルギー分解能を期待して4cm×4.8cm×4.8cmの有効体積を持つ大型のグリッド付き液体Ar電離箱を試作し、理化学研究所の加速器からの重イオンを用いてその性能のテストを行った。その結果は次の通りである。 i) Ar, Caイオンに対するレスポンス:これらの重イオンに対しては、FWHMで0.5%と、ほぼ、期待通りのエネルギー分解能を得ることが出来た。又、この限界値は、次のO, Neイオンと同様、計数率に依存することがわかったが、その影響の程度は、遥かに少なく、毎秒100個程度まで0.5%の分解能が維持されることがわかった。 ii) O, Neイオンに対するレスポンス:Ar, Ca等の重イオンに比べ、O, Ne等の軽イオンの場合のエネルギー分解能がなかなか1%を割ることが出来ず、その上、エネルギー分解能がAr, Caの場合よりは遥かにイオンの計数率に依存することが見出された。この計数率依存性は、入射イオンによって生成される残留イオンによる空間電荷効果によって説明された。1%の半値幅は、計数率を1count/sec以下にして初めて達成された。この現象は、これまで使用されてきた電場(1-2kV/cm)の増加によってある程度解決されよう。 iii) Bragg Curve Spectrometryの可能性: 低計数率の、陽極からの微分出力波形から、Bragg Curveを引き出すことが可能であることがわかった。この方式を利用して核種弁別を行うことを検討中である。
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