1)まずこれまで低分子を対象に用いられてきた熱膨張型高圧ガセル法を用いて、プロトン400MHzの高い感度で高圧NMR測定を可能にした。これをシステムを用いて、蛋白質の高圧変性について研究した。Ribonuclease Aの重水溶液を対象とし、1-2000気圧のさまざまな圧力下でプロトンNMRを用いて、天然-変性構造間の平衡定数を温度の関数として測定することに成功した。これを熱力学的関数に基づいて解析し、Ribonuclease Aの圧力変性が蛋白質の疎水基を取り巻く水の熱力学的状態に強く依存することを初めて明らかにした。 2)次に、NMRプローブ内の試料に対して外部から直接加圧できる、超高磁場用のオンライン(直結型)高圧NMR測定システムを製作し、これを750MHzNMR測定装置と直結して、超高感度超高分解能で高圧NMRスペクトルを測定できシステムを完成した。これはハンドポンプで圧力を操作し、灯油を媒体として直接NMRプローブ内に設置した試料セル(石英製)を加圧できるものである。これによって圧力変性とは別に、フォールドした立体構造そのものが加圧によって変化することを明らかにした。また軽水中での測定から、加圧によって蛋白質の水素結合が敏感に影響を受け、その距離が短縮されることを発見した。 4)最後に以上の経験を生かして、NMR用圧力ジャンプNMR装置を試作した。このシステムは、高圧ニードルバルブ、圧力ジャンプ用チェックバルブ、ストライカ-、メカニカルトリガー、高圧配管(いずれもSUS-316製)よりなる。圧力媒体にメタノールを使用して、2500気圧から常圧へ瞬間的に圧力をジャンプさせる実験に成功した。この装置に、合成石英製高圧セル(耐圧3000気圧以上)を接続し、プロパノールを対象として圧力ジャンプNMRの測定実験を行ったところ、ジャンプに伴うそれぞれのプロトンの共鳴線のシフトの観測に成功した。
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