本研究は、既存の透過型電子顕微鏡を本体とした放射光検出システムの開発を目的としている。細く絞られた電子ビームにより局所領域からの放射スペクトルを観測する機能、および電子ビームを試料上に走査することで光信号から単色放射像を作る機能をもつシステムは初年度でほぼ完成した。このシステムによる放射像の空間分解能は放射機構に依存するが、0.1μm以下の分解能が得られている。2年度は、このシステムをさまざまな物質に適用した。以下の物質に対して得られた主な結果について報告する。 1)銀薄膜からの遷移放射:銀は伝導電子のプラズマ振動の周波数に対応する波長が光学領域にある数少ない金属の一つで、薄膜ではその波長をもつ発光性の表面プラズモンモードが存在する。銀薄膜からの遷移放射スペクトルを測定し、このモードに対応する発光ピーク(プラズマ放射)を確認した。さらに、遷移放射が薄膜の結晶性や表面モルフォロジーに影響されること、下地結晶のある場合に放射像に特徴的なコントラストを生じることを見いだした。 2)シリコン下地結晶上の酸化シリコン薄膜からの放射を調べ、膜厚が100nm以下では遷移放射強度は膜厚とともに減少するが、100nm以上になるとチェレンコフ放射が大きくなり放射強度が増加することを見いだした。 3)ポーラスシリコンのカソードルミネッセンスには、フォトルミネッセンスに観測される赤色発光の他に、波長420nmに幅広いピークを持つ発光が観測された。断面試料を用いたCL像からこれらの発光には深さ方向の分布に違いがあることが示された。Ar雰囲気中でアニールした試料の赤外吸収スペクトルとCLスペクトルとから420nmの発光は表面に付着した水素を含むシリコン化合物によるものであることを明らかにした。
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