研究概要 |
本研究は,有機金属気相成長法(MOVPE)による短波長半導体レーザの実用レベルでの作製技術を確立することを主眼として,レーザ作製に必要な量子構造の構造制御とp型伝導型制御を目的としたものである.以下に,本年度の研究で得られた結果を示す. 1.量子構造の井戸用材料であるZnCdSe混晶を作製するために,気相中のZn,Cd原料供給量と固相の組成の関係を調べた.発光波長および臨界膜厚を考えると,井戸層Cd組成は20%程度であることが望ましいが,その程度の組成を持つZnCdSeが再現性よく作製できた.この結果を踏まえ,井戸層厚50Å,100Å,150Åの量子井戸構造を作製し,その光学的特性をフォトルミネッセンスにより測定したところ,各井戸に対応した発光が観察され,量子井戸構造が形成されていることが確認された. 2.MOVPEにおけるp型伝導を妨げている機構として水素によるアクセプタ(窒素)の不活性化,いわゆる“水素パッシベーション"が提案されている.本研究では,水素の影響を極力避けるという観点から,水素-窒素結合の少ない何種類かの窒素原料,タ-シャリブチルアミン(tBNH_2),タ-シャリブチルエチルアミン,アジ化エチルによる窒素添加を試みた.窒素の添加効率,ホスト材料の原料との反応性,原料純度などを総合的に検討した結果,tBNH_2が窒素原料として最も適当であることを見いだした.しかしながら,原料の分解過程において生成される水素による窒素の不活性化が生じるため,成長直後のZnSeは,窒素原料に関わらずp型を示さなかった. 3.窒素の不活性化の原因である水素-窒素結合を解離するため,成長後に熱処理を施した.熱処理雰囲気,温度,時間などの最適化を図ったところ,窒素雰囲気中,500℃,約30分の熱処理で,実効アクセプタ密度4×10^<17>cm^<-3>とMOVPEでは最高レベルの値を得た.熱処理により得たp型ZnSeを用いてpn接合を作製し,77Kで電流注入による発光を観測した. 以上のように,本研究により有機金属気相成長法による短波長半導体レーザ作製に向けた基礎的な知見が得られたものと考える.今後,1.と2.,3.を組み合わせ,電流注入型レーザの実現に向けた研究を展開する予定である。
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