研究概要 |
硫酸塩結晶に放射線照射したさいに生成するSO_3^-ラジカル量をESRにより測定する放射線被ばく線量計用素子の開発を目的として,前年度はグラセライト(K_3Na(SO_4)_2)を異種陽イオンで付活した各種試料を合成し,X線で照射したのち,ESR特性と各種蛍光特性を測定し,比較検討した。その結果,SO_3^-ラジカルの生成を促進する付活剤としては,3価で安定なイオンでかつそのイオンサイズが母結晶のイオンサイズと類似しているイオンが適当であると推察した。本年度はその推察の妥当性を検討するため,グラセライト中における希土類イオンの存在状態を熱蛍光分光法により調べた。次のような結果より前年度の推定の妥当性は確認されたと思われる。通常3価で安定なLaで付活された試料では熱蛍光スペクトルが観察されないが,Pr,Nd,Gd,Y,Tmの各イオンで付活された試料はいずれも3価の遷移に由来する熱蛍光スペクトルが観察され,とくに,GdイオンおよびYイオンで付活された試料の熱蛍光スペクトルは強い発光ピークが観察された。また,Smで付活された試料では,浅いトラップは2価,深いトラップは3価の遷移に由来する熱蛍光スペクトルが観察され,2価と3価の混合状態で存在することが確認された。Euで付活された試料は予想通り2価の遷移に由来する熱蛍光スペクトルが観察された。 次に,GdイオンおよびYイオンで付活した試料を石英ガラス管を封入した素子用いて実用試験を行った。X線の吸収線量に対するダイナミックレンジを広げるため,パーソナルコンピュータ用プログラムの改良を行った。自然放射線程度の微量X線発生装置がないので,検出限界は確認されていないが,吸収線量依存性の結果より,熱蛍光線量法の代替品にはなり得ることが明らかとなった。さらに,GdイオンおよびYイオンで付活した試料は,高感度で単純なESRスペクトルを示すので,ESRイメージング用素子への応用が可能であることがわかった。
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