真空吸引脱ガス法を用いて溶鉄の脱水素、脱酸、脱錫実験を行った。実験では、高周波溶解炉を用い、MgOるつぼ中に電解鉄を溶解し、溶鉄中の水素、酸素、錫、硫黄などの各濃度を調整した後、種々の気孔率、気孔径を持つAl_2O_3、MgO、Al_2O_3-SiO_2、Al_2O_3-C、MgO-C製多孔質管を浸漬し、管内を数mmHgまで減圧にして実験を行った。なお、実験中浴表面にはアルゴンを吹付けた。 溶鉄の脱水素については、反応速度がガス側、液側の物質移動によって律速されることを明らかにし、混合律速モデルを用いて実験結果を解析することにより、浴表面および溶鉄-多孔質界面のガス側、液側物質移動係数を求めた。これより、1)ガス側、液側物質移動係数は浴中の酸素、硫黄濃度の影響を受けないこと、2)浴表面の液側物質移動係数は、拡散係数の相違を補正すれば、従来の溶鉄-窒素間反応で得られている値にほぼ一致すること、3)多孔質管を介した脱水素の寄与も大きいが、溶鉄-多孔質管界面のガス側、液側物質移動係数は、浴表面の各物質移動係数の約1/2であること、などがわかった。 溶鉄の脱酸については、1)MgO-C製の多孔質管を用いることにより、酸素濃度が1000ppmから20ppm以下まで迅速に低下すること、2)多孔質管の炭素含有率を抑制することにより、溶鉄の脱酸、脱炭が同時に進行すること、3)非金属介在物が生成するAl、Siなどの脱酸剤を使用しないで溶鉄の脱酸が可能であること、などを明らかにした。なお、当初MgO-C管の炭素により溶鉄の脱酸が進行すると想定していたが、実際にはMgO+C=Mg+CO、Mg+O=MgOの反応が脱酸に寄与していることがわかった。今後この反応を利用した新しい溶鉄の脱酸法の可能性についても調べる予定である。 溶鉄の脱錫についても実験を開始し、これまでに溶鉄の脱錫はSn+S=SnS(g)の他にSn+O=SnO(g)の反応によっても進行することを明らかにした。
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