研究概要 |
在来の希少植物種や人工的に作出された新規植物種を保存し,継代的に栽培するための有望な手段として,植物体細胞の人工種子化技術の開発が挙げられる.本申請課題で提案した人工種子の生産は,遺伝的安定性,繁殖性等に優れた植物毛状根細胞を用い,1)細胞塊生産プロセス(毛状根から未分化な細胞塊の生成),2)細胞塊のカプセル化プロセス(細胞塊を用いた人工種子の調製),3)細胞塊からの発根・発芽プロセス(人工種子からの植物体の形成)から成る.それぞれのプロセスについて検討し,以下の結果を得た. 1.セイヨウワサビ毛状根に注目し,植物ホルモンとしてのサイトカイニン(BAP)とオーキシン(NAA)を含む培地が,人工胚として利用しうる細胞塊の生成に有効であることが分かった.さらに,細胞塊生産プロセスにおけるBAPとNAAの効果を定量的に評価した. 2.細胞塊のカプセル化(人工種子化)プロセスでは,人工胚としての細胞塊をアルギン酸ゲルに包埋し,細胞塊のNAA処理が発根の向上をもたらすことを示した.さらに,人工種子の保存性を高めるため,アルギン酸ゲルを種々の材質の薄膜で被覆し,パラフィン薄膜が有効であることを示した. 3.細胞塊からの毛状根の発生は,時間に対して正規分布関数となることを見出し,細胞塊からの発根・発芽過程を速度論的に解析した.また,発生した毛状根を光照射下で培養することにより,植物体へと生長することを示した.また,アルギン酸ゲルとパラフィン薄膜の酸素透過性と細胞塊の再生効率の関係を明確にするとともに,60日の保存期間後も,細胞塊は再生能力を有することを認めた. 以上より,本申請課題で得られた結果は,有用植物の人工種子化による保存・大量繁殖技術に対する基礎知見を与えるものと考えられる.
|