研究概要 |
本研究の目的は、非断熱過渡信号測定"という測定原理を用いて、これまでのESRに較べて,感度にして1000倍即ち検出感度10^<-15>モル程度,検出時間にしてマイクロ秒オーダーの性能を持つESRスペクトロメーターを試作することである. この目的を達成するための測定法としては,特殊な系にのみ適用可能なパルスESR法よりも適用性の広い,エネルギー領域での過渡吸収測定法を選んだ.過渡吸収を測定するには,外部磁場を一定にして周波数を高速掃引する方法と,周波数を一定にして磁場を高速掃引する方法がある.掃引高速がより早い周波数掃引法を採用し,測定を行ったところ,マイクロ波の位相安定性や回路の周波数特性に問題があり,安定な信号検出が困難であることがわかった.このため,本年度は周波数を固定して高速磁場掃引を行った.現在のところ,ほとんどの試料について横緩和速度を無視できるほど十分早い磁場掃引が達成されていない.しかしながら,緩和速度の遅い試料については100倍程度のESR感度増加を得ることができた.この手法をポリシランイオンラジカルに適用し,その電子構造に関する知見を得ることができた.現時点で初期の目的が完全に達成されたとは言えないが,今後磁場発生回路のインピーダンスを低下させることにより,ユニバーサルな測定装置を完成させたい.
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