研究概要 |
環境中に微量に存在する有機汚染物質の光無害化は,対象となる基質濃度が極めて低いために酸化チタンを光触媒として用いただけでは光分解反応が遅いため完全な処理には長い時間を要する。この解決策として吸着剤を酸化チタンの担体として用いることにより反応速度を増大できることを示してきた。このときの吸着剤の働きは基質分子を吸着させることにより酸化チタン近傍の基質濃度を増大させるためと考えられるが,吸着剤の吸着力が大きすぎると逆に光分解反応が低下する傾向が見られたことから,吸着した分子の拡散性が光分解反応速度に大きく影響を及ぼしていることが示唆された。そこで本年度は吸着した有機分子の拡散性に注目して研究を進め,以下の成果を得た。 (1)ゼオライト,活性炭などの吸着剤に担持した酸化チタンの光触媒膜による気相中の希薄なプロピオンアルデヒドの光分解反応は,光触媒膜の10分の1のみの光照射によっても完全分解が達成された。さらに完全分解に要する時間は膜全体に光照射を行った場合の10倍以上の長時間を要した。このことから光触媒膜の暗部から光照射部への吸着した基質の拡散が光分解速度に大きく影響を及ぼしていることが確認できた。(2)基質の光分解により生成する二酸化炭素濃度を膜に部分光照射した時間の関数として求め,この経時変化が膜の暗部から光照射部への基質の拡散によって引き起こされているものと仮定することにより,デジタルシュミレーション法を用いて拡散係数を求めた。その結果,基質の拡散係数の大きいものほどおおきな光分解反応速度を示した。これらのことから基質が吸着剤に吸着し酸化チタン近傍に濃縮されること,さらに吸着した基質が光触媒上を拡散しやすいことが吸着剤に担持した酸化チタン光触媒が高い光触媒活性を示す原因であることが分かった。
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