船舶流体力学においては、コンピューターを用いた大規模数値計算による流場のシミュレーションが盛んになり、それに期待する所も大きい。しかし、流体力学的特異点近傍の様子を知る上で、また、流場の全体的挙動、支配パラメターの依存性などを知る上では、やはり解析的手法が威力を持っている。 しかし、解析的手法には、難解、単純ミスの繰り返しによる嫌気を誘うなど、マイナスイメージが強い。特に大学教育段階で学生がこのようなイメージを固定した場合、個人的能力が十分引き出されないまま、研究者、技術者として育って行くことになり、社会的損失も大きい。 本研究は、このような状況を打開するため、船舶流体力学専用のパーソナル数式処理システムを開発し、コンピュータ支援による解析的手法の発展、それに取り組む研究者の増加を目指したものである。 本年度は著者が既に行ってきたmuLISP87をホスト言語とし、ハワイ大学で開発されたパーソナルコンピューター用汎用数式処理システムmuMATH83のソースファイルを生かした数式処理システムの機能強化を行った。ただし、ホスト言語を他の高速リスブ言語に移植変更の予定であったが、達成できていない。以下に今年度付加した機能を列記する。 1、数式演算プロセサ-の利用による数値計算機能の付加。 2、複素数値計算機能、複素平面へのグラフィック出力機能の付加。 3、定係数1階連立常微分方程式、定係数高階常微分方程式、オイラー型常微分方程式の解法機能の付加。 4、簡単なフーリエ交換、ラプラス変換機能の付加。 5、Pade近似展開機能の付加。 5については平板まわりの境界層方程式を、通常必要となる無限遠方での漸近展開を用いることなく、再帰的に計算した壁面近傍の級数解をPade近似展開することにより、全領域で収束する解が得られることがわかった。
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