研究概要 |
今年度はオオサシガメ(Rhodnius prolixus)を用いて唾液腺の構造や構成するタンパク質の分析を先ず行った。唾液腺は赤色で発育ステージに伴って大きくなる。吸血の前後では腺の収縮が認められた。切片にして見ると一層の細胞層からなる袋状の構造で内部に赤色の唾液が満たされていた。唾液腺抽出液を作製し電気泳動(SDS-PAGE)に依って構成するタンパク質について検索したところ,大部分のタンパク質バンドはいずれのステージでも観察されたが,我々がRpSG-Iと名付けたタンパク質バンドだけは,4令期と5令未吸血の時期には存在せず,5令幼虫が吸血して成虫分化を開始するのに対応して出現し,増加する。RpSG-Iは赤い色素を結合している。現在RpSG-Iの性状や活性について検討している。次に,唾液腺粗抽出液のもつ動物血液に対する凝固阻害活性について牛の血液を用いて調べた。サシガメの唾液腺一匹分の抽出液は約200ulの牛血液の凝固を完全に阻害することがわっかった。血液凝固阻害活性(clootting timeの延長)を指標にして,血液凝固阻害物質の精製を試みた。HPLCによりゲル濾過と陰イオン交換及び逆相クロマトグラフィーを行い,電気泳動的に一本のバンドになるまで精製することに成功した。このタンパク質バンドをRpSG-IIと命名した。現在,RpSG-IIの性状と血液凝固系のどの因子の阻害をするかについて検討している。また,今後の解析やスクリーニングに必要なpolyclonal及びmonoclonal抗体の作製をRpSG-I及びRpSG-IIの両者について行っている。また,これらのタンパク質のcDNAクローニングを行うため,唾液腺からのRNAの抽出及びcDNAライブラリーの作製を行っている。
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