研究概要 |
(目的)オオサシガメRhodnius prolixusの唾液腺から血液凝固阻害因子を精製し,そのcDNAクローニングを行い構造と活性特性を解析し,baculovirus系により発現する。 (方法)オオサシガメ唾液腺の血液凝固阻害因子を,ガラス管内での血漿凝固時間の延長活性を指標にして,ゲル濾過およびイオン交換クロマトグラフィーにより,SDS-PAGEおよび逆相クロマトグラフィーで単一になるまで精製した。未吸血成虫の唾液腺から抽出したRNAを用いて調製したcDNAを発現ベクターgt11に組み込んでcDNAライブラリーを作製した。精製因子に対する抗体を作製し,cDNAライブラリーからこの因子のcDNAをクローニングし,その塩基配列を決定した。又cDNAをAcNPVに組み込んで昆虫細胞で発現させた。 (成績)精製された本因子は赤色を呈し,400nmに特異的な吸収ピークを持つことから,ヘムタンパク質であることが判明した。精製された因子のAPTTおよびPTに及ぼす影響を検討した結果,APTTのみを特異的に延長したことから,この因子は内因系凝固阻害因子であることが明らかになった。更に活性について検討を行い,この因子が内因系lXa-Vllla-Ca-PL複合体によるX因子の活性化を阻害することを明らかにした。N端末のアミノ酸配列およびcDNA塩基配列の解析から,本因子の前駆体はopen reading frame2O2アミノ酸の大きさで,23アミノ酸のsignal peptide と179アミノ酸分子量約2万の成熟タンパク質からなることが判明した。本因子のアミノ酸配列には,既報の凝固阻害因子との間に相同性は認められず,新規な凝固阻害因子であることが判明した。またBaculovirus AcNPV系により活性ある因子の発現に成功した。 (結論)オオサシガメ唾液腺から精製された血液凝固阻害因子は分子量約2万のヘムタンパク質で,内因系凝固阻害(Xase Inhibition)活性を有し,アミノ酸配列は他の凝固阻害因子と相同性のない新規な因子であることから,Prolixin-Sと命名した。
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