研究概要 |
(目的)吸血性昆虫のオオサシガメRhodnius prolixusの唾液腺由来の血液凝固阻害因子を精製し、性状を調べると共に、cDNAクローニングを行って、バキュロウイルス発現系により大量に生産して、その活性を明らかにして、抗血栓剤の素材となる分子を開発することを目的とした。 (方法)オオサシガメの唾液腺抽出液を作製し、血液凝固時間APTTおよびPTの延長を指標に血液凝固因子の阻害因子を精製した。分子の性状を明らかにし、凝固阻害活性の特性を調べ、抗体を作製した。唾液腺のcDNAライブラリーを作製し、抗体によりcDNAスクリーニングを行った。cDNAをバキュロウイルスベクターに組み込み昆虫細胞で発現させた。組み替え体の精製を行い、活性を調べた。 (成果)オオサシガメ唾液腺には内因系凝固のXase(IX因子,VIII因子,PL,CaのComplex),および共通系凝固のlla(トロンビン)の阻害因子を含むことを明らかにした。Xase阻害因子をProlixin-Sと命名し、その性状解析をおこない、Prolixin-Sは分子量20kDaのヘム蛋白質であること、Prolixin-Sは一酸化窒素NOを結合し、動物の血管平滑筋を弛緩する活性を併せ持つことを明らかにした。Prolixin-S cDNAをクローニングし、その塩基配列を明らかにした。Prolixin-S cDNAをBaculovirus発現ベクターAcNPVに組み込み、昆虫細胞Tn5に感染させて発現した。細胞の培養液から組み替え体recombinant(r)Prolixin-Sを大量に精製することに成功した。rProlixin-SはXase阻害活性を示した。rProlixin-Sは、hemineを結合して、ヘム蛋白質とし、これににNOガスを吹き込むことにより、NOを結合したrProlixin-Sを調整することができた。このものはウサギの血管平滑筋に作用させて弛緩させる活性のあることを確認した。NOは唾液腺内の条件(室温pH6.0)では強くProlixin-Sに結合し、動物の血管内の条件(37C,pH7.4)では解離放出することを吸収スペクトルの変化を調べることにより明らかにした。 (結論)Prolixin-Sは抗凝固活性と血管弛緩活性を持つ特異な分子であることが分かった。オオサシガメは唾液腺からProlixin-Sを分泌し、動物血管に注入して、血液凝固を抑え、血管を拡張して血液を集めて吸いやすくしていることがわかった。また、Prolixin-Sを遺伝子工学的に大量に発現させ、NOを結合し保存することが可能であること、動物体内ではNOを直ちに放出して血管を弛緩することなどから、この分子は医薬品開発の素材となる優れた特性を備えていることが判明した。
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