研究概要 |
カイコの生産する絹糸タンパク質の主成分フィブロインがH鎖、L鎖、P25の3種のタンパク質成分の分子複合体であるとの観点から研究を進め以下の結果を得た。先ず、それぞれのタンパク質中のペプチド配列に対する抗体を作製し、これらを用いて、分子量350KのH鎖と分子量25KのL鎖の間には1本のジスルフィド結合が存在すること、分子量約30KのP25はこれらと疎水的相互作用で複合体形成していることを示した。次に、H-L複合体をリシルエンドペプチダーゼ消化し、ジスルフィド結合部位を含むペプチドを分離し、還元後、H鎖、L鎖由来のペプチドのアミノ酸配列を決定した。その結果、L鎖の172番目のシステイン残基がH鎖のC末から20番目のシステイン残基とジスルフィド結合していることが判明した。また、H鎖のC末9残基のペプチドを分離してアミノ酸配列を決定し、C末とC末から4番目のシステイン残基が分子内ジスルフィド結合を形成していることも明らかにした。一方、これまでタンパク質としての性質が解明されていなかったP25について、レクチンの1種ConAとの反応性、N-グリコシダーゼF消化による低分子化とConAとの反応性の消失からアスパラギン結合型糖鎖をもつ糖タンパク質であることを明らかにした。P25のcDNA配列中には3箇所の糖鎖結合可能部位が存在した。また、H、L鎖間のジスルフィド結合が形成出来ず、フィブロイン分泌量が1%以下に低下した裸蛹変異カイコNd(2),Nd-s,Nd-sDではP25の糖鎖結合量が減少すること、後部絹糸腺からわずかに分泌されたフィブロインにはL鎖は含まれないが、P25はH鎖とほぼ同モル比で含まれることから、P25はH鎖と親和性が高いが、H鎖、L鎖、P25の3成分が規則的な複合体を形成するとP25の糖鎖結合部位の数が制限されることが推定された。さらに、カイコ以外の絹糸昆虫であるマツカレハ、アゲハのフィブロイン中にもカイコのL鎖、P25と相同性を有する低分子タンパク質が存在することが分かり、これらのcDNAクローニングと塩基配列決定を行って、システイン残基とその周辺のアミノ酸配列の保存性、P25では糖鎖結合部位の保存性を示した。
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