(1)リゾムコールペプシン(MPP)を生産するRhizomucor pusillusを科学変異剤で処理し、熱安定性が大きく低下した変異株を得ると共にそのMPP遺伝子をクローニングし、塩基配列を解析した結果、94番のAlaがThrへ、169番がGlyがAspへ変異することによって熱安定性の低下が起きていることが明らかになった。上記の2つのアミノ酸を同時に置換させた二重変異体を作製したところ、耐熱性がさらに低下し、55℃、5分の処理でも残存活性は1%にまで減少した。さらにこれらの改変体の酵素活性を測定し、野性型のものと比較したところ、どのパラメーターも野性型のものとほとんど同一であり、これらの変異は耐熱性のみを著しく低下させるものであることが明らかになった。 (2)サブサイトの改変により耐熱性低下を引き起こすことが明らかになったTrp 190Pheと凝乳活性と基質特異性が上昇したTyr75Asnとを組み合わせたキメラ蛋白を作製し、酵母で発現したところ、基質特異性を示すC/P比が2.6倍上昇すると共に耐熱性も低下し、55℃、15分間処理で1%以下の残存活性を示す、より実用に適した人工酵素の作製に成功した。 (3)アスパラギン酸プロテアーゼでは、ペプシンのpH2からレニンのpH7まで、至適pHに大きな差があることが知られている。そこで、MPPをレニン型に改変したThr218Ser、Asn303Ala及びキモシン型に改変したAsn303Aspを作製した。S_2を構成する残基の変異体Thr218Serの酸変性ヘモグロビンに対する至適pHは役0.5低下した。Asn303Alaでは変化はないが、303Aspでは約0.5上昇した。これらの結果は、人工器な変異の導入により酵素反応の至適pHを変化させることが可能であることを示す事例になると考えられる。 (4)MPPを生産するR.pusillusでは宿主・ベクター系の開発が報告されていなかったため、我々は分子生物学的解析にために、栄養要求性の相補による形質転換系の確立し、この変異株にRhizomucor circnelloides LeuAを導入することによって、ug当たり30個の形質転換体を得ることに成功した。この形質転換系を用いて野性型リゾムコールペプシンと2ケ所の糖鎖付加部位を欠失させた変異体を発現したところ、大量のリゾムコールペプシンの生産が認められた。
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