針葉樹木材を原料とする食用キノコの人工栽培化のため、次の実験を行った。(1)適性種菌の取得のため、野性子実体からの菌糸の純粋分離、(2)適性種菌の鑑別のため野性子実体のアイソザイム分析、(3)適性種菌の大量取得のためバイオリアクターによる液体培養、(4)木質培地培養のため、木粉(スギなど)、米糠添加木粉、間伐・枝材、伐根などの培地におけるスギヒラタケ、マツオ-ジ菌培養実験、(5)腐朽木材の化学成分組成分析、及び(6)スギヒラタケ子実体発生環境の分析。 その結果、7種の種菌分離に成功し、種菌の鑑別は子実体のエステラーゼ同位酵素の分析によって可能なこと、大量培養がバイオリアクターで達成できることが分かった。人工培養の試みは、スギヒラタケは米糠混合のスギ木粉、マツオ-ジは無添加のスギ木粉培地で菌糸培養が可能なことを示したが、子実体の発生は、マツオ-ジのみ成功した。スギヒラタケは子実体源基の形成に留まり、実験室での子実体発生は認められ無かった。原木による栽培では、マツオ-ジはトリコデルマ等のコンタミネーションにより達成できなかったが、スギヒラタケでは菌糸は迅速に蔓延した。子実体の発生は、実験室では達成できず、スギヒラタケ発生のスギ林床に移すことにより、漸く達成した。スギヒラタケ子実体発生には、現時点ではスギ林の環境が必須であることが判明し、特に湿度、温度、照度の重要性が指摘された。
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