前年度に引き続き、新たなクローニングを試み、増殖能・分化能を長期にわたって維持しうるクローンを探索した。株化細胞は、胎児の組織や腫瘍など、未分化な細胞の多い組織からクローニングされることが多いため、本年度は肥育終了後の個体のみならず、生後1か月以内の子牛の脂肪組織や、未熟な脂肪細胞が多いと報告されている筋肉内脂肪組織から調製した脂肪前駆細胞からのクローニングも試みた。しかし、行ったいずれの実験においても、6継代以上にわたって増殖能および分化能が維持されたクローンは得られなかった。 また、ウシ脂肪前駆細胞の脂肪細胞への分化を評価するための適切な培養条件および分化の評価法についての検討を行った。まず、マウスの脂肪前駆細胞株を脂肪細胞へ分化させるためにはウシ胎児血清あるいはこれに含まれている増殖因子が必要であることが報告されているが、ウシ脂肪前駆細胞の初代培養においては、血清を添加することなしに分化が観察され、血清の添加はむしろ分化を抑制することを明らかにした。したがって今後は無血清培地を用いて分化誘導を行う。 脂肪細胞への分化の評価方法としては、マウス細胞株においてはグリセロール-3ーリン酸デヒドロゲナーゼ(GPDH)活性の測定あるいは脂肪滴を含む細胞の数の計数が広く用いられているが、ウシ脂肪前駆細胞の初代培養においても、GPDH活性がやや低いものの、いずれの評価方法も用いることができることを明らかにした。 最近、脂肪細胞の分化にperoxisome proliferator-activated receptor(PPAR)γが関与していることが報告され、注目を集めている。このレセプターのリガンドの1つであるthiazolidinedione誘導体をウシ脂肪前駆細胞の培地に添加したところ、脂肪細胞への分化を強力に誘導した。そこで今後はクローニングにおいて分化能の維持を検定する際にthiazolidinedione誘導体を用い、分化能を維持する細胞の検出を容易にすることにより、細胞株樹立の確率を高める。
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