前年度に引き続き、増殖能・分化能を長期にわたって維持しうるクローンを探索した。ウシ脂肪前駆細胞き初代培養はげっ歯類のそれよりも脂肪細胞へ分化する細胞の割合が低い。そこで、有用な脂肪前駆細胞株を樹立するためには、分化能力の高い脂肪前駆細胞の割合を高めることが必要であると考え、段階的トリプシン法や細胞付着法などを併用して継代を進めた。また、脂肪前駆細胞に対し特異的に増殖を促進するタンパクが脂肪組織で産生されているという報告があることから、ウシ脂肪組織からタンパクを粗精製し、これを用いて脂肪前駆細胞の割合を高めることを試みた。しかし、いずれの方法も効果に乏しく、長期にわたって継代可能で脂肪前駆細胞の形質を保持するクローンを得ることができなかった。 また、前年度において転写制御因子PPARγのウシ脂肪前駆細胞における明らかにしたが、マウスにおいてPPARと密接な関係にあるとされている転写制御因子RARのウシ脂肪前駆細胞における重要性を検討する目的で、RARのリガンドであるレチノイン酸、およびその前駆物質であるレチノールをウシ脂肪前駆細胞の倍地に添加し、脂肪細胞への分化に及ぼす影響を調べた。いずれの物質も、チアゾリジン誘導体の脂肪細胞分化誘導効果をブロックした。したがって、ウシ脂肪前駆細胞においても、PPARとRARの相互作用は存在することが推察された。またこのことはビタミンAが肥育牛の筋肉内に存在する脂肪前駆細胞の分化を通常抑制しており、低ビタミンA栄養状態になるとそれが解除され脂肪交雑が高まる可能性を示唆する。しかしながら、低ビタミンA飼養は欠乏症の発生の頻度を増加させ、経済的および動物福祉の点から推奨できる飼養法ではない。ウシにおける脂肪細胞分化の調節機序をさらに明らかにすることにより、このような問題なしに脂肪交雑を高める飼養技術を開発することが望まれる。
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